第10章 神野区の悪夢編
「これは……治癒系の個性なのか?」
「いや、待て。さっきの龍は何だったんだ……?」
「彼女の個性は、確か……」
ヒーローたちの視線が、自然と彼女へ集まっていく。
先ほど戦場に現れた、巨大な黄金の龍。
大地を震わせ、空気そのものを支配するような圧倒的な存在感。
そして、オール・フォー・ワンの個性を拒絶した、あの異常な力。
彼女の個性が、ただの操作系ではないことは明らかだった。
しかし、今、彼女が行っていることは何なのだろう。
身体に干渉し、傷を修復する。
まるで、人間の生命活動そのものを意のままに操っているかのようだった。
「……夢でも見ているのか、俺たちは」
誰かが呟いた。
その言葉を否定できる者は、誰もいなかった。
やがて、彼女の手元から黄金の光がゆっくりと消えていく。
そっと手を離した。
オールマイトは自分の身体を確かめるように、ゆっくりと指を動かした。
先ほどまで全身を支配していた激痛が、嘘のように和らいでいる。呼吸も幾分楽になり、身体の奥にあった重苦しい感覚も薄れていた。
完全に元通りになったわけではない。長年蓄積された損傷や消耗まで、すべて消えたわけではなかった。
それでも、命を脅かしていた状態からは確実に脱していた。
「おもち……君は……」
オールマイトは言葉を失った。
彼女は、少しだけ困ったように笑った。
「そんな顔しないで。私だって、まだ自分の個性を完全に把握できているわけじゃないから」
「いや……しかし……」
「それに」
彼女はオールマイトの目を見つめた。
「あなたが無事で、本当によかった」
その声に、オールマイトの表情が揺らいだ。
彼は何かを言いかけたが、結局、彼女の頭にそっと手を置くことしかできなかった。
「……ありがとう」
その一言には、言葉にできないほどの想いが込められていた。
彼女は小さく頷くと、すぐに立ち上がった。
「さて」
「お、おい!君、待ちなさい!」
オールマイトの制止もむなしく、彼女は次の負傷者へと歩き始めた。