第10章 神野区の悪夢編
緑谷は、ふと画面の端に映り込んだものに気づいた。
「あ……!」
瓦礫の広がる戦場。
救助に向かうプロヒーローたちの間を、カメラが捉えていた。
そこに、小さな人影があった。
白いドレス。
その上から、大きな上着を羽織っている。
乱れた黒髪が風に揺れ、誰かに付き添われながら歩いていた。
「……おもちさん……?」
緑谷の声が、かすれた。
ほんの一瞬の映像だった。
けれど、見間違えるはずがない。
あのドレス姿。
あの黒髪。
そして、ようやく自分の足で立っている彼女の姿。
「おい……今の……!」
切島が画面を指差した。
「おもちだよな!?今、映ったよな!?」
「間違いないですわ……!」
八百万は目を見開き、両手で口元を覆った。
「助かったんだ……!ちゃんと、助け出されたんだ……!」
「よかった……!」
緑谷は再び涙を流した。
今度の涙は、先ほどとは違う。
ずっと胸の奥に引っかかっていたものが、ようやくほどけていくような安堵だった。
彼女が連れ去られたと知ったときの恐怖。
助けに向かったのに、目の前でオール・フォー・ワンに捕らえられた彼女を見て、何もできなかった悔しさ。
そして、オールマイトに託すしかなかった自分たちの無力さ。
あの日から、ずっと心のどこかに残っていた。
彼女は無事なのだろうか。
生きているのだろうか。
もう二度と、あの穏やかな笑顔を見ることはできないのではないか。
そんな不安が、消えることなく胸を締め付けていた。
それが今。
画面の向こうで、彼女は確かに生きていた。
「……本当に、よかった」
緑谷は両手で顔を覆った。
「よかった……本当に、よかった……!」
麗日も切島も、言葉を返せなかった。
ただ、画面に映る彼女の姿を、食い入るように見つめていた。