第10章 神野区の悪夢編
彼女は、ようやく周囲の視線に気づいた。
「……あ」
そうだった。
ここは夢の中ではない。
目の前には、オール・フォー・ワンがいる。
プロヒーローたちがいる。
ヴィラン連合もいる。
そして、誰もが自分と龍を見ていた。
「…………」
彼女は、一度目を閉じた。
色々と、説明しなければならないことがありそうだ。
けれど、今はそれどころではない。
まずは、この場をどうにかしなければ。
彼女が顔を上げると、龍は不満げに鼻を鳴らし、黄金の光となってその姿を縮め始めた。
『……よかろう。今は、お前の命に従おう』
「ええ。そうしてちょうだい」
『だが、覚えておけ。我はもう眠りには戻らぬ。これより、お前の力は完全なものとなる』
その声が、彼女の胸の奥へと沈んでいく。
巨大な龍の身体が黄金の粒子へと変わり、彼女の背中へと吸い込まれるように消えていった。
最後に、鋭い瞳が一瞬だけ姿を現す。
『……次に呼ぶ時は、もっと面白い場所を用意しておけ』
「はいはい」
彼女が軽く返すと、龍の姿は完全に消え去った。
同時に、戦場を覆っていた黄金の光も収束していく。
凄まじい威圧感が薄れ、ようやく周囲の人々が息をついた。
だが、誰も安心などできなかった。
あれほどの存在が消えたというのに、今度は彼女自身から、先ほどまでとは比較にならないほど濃密な気配が漂い始めていたからだ。
彼女は、ゆっくりと地面へ降り立った。
白いドレスの裾が揺れる。