第10章 神野区の悪夢編
『我は、お前の力そのもの』
龍は、静かに告げた。
『お前が生まれた時より、その身の奥底に眠り、お前の力が暴走せぬよう抑えてきた。お前自身もまた、無意識のうちに我を押さえつけていたのだ』
「……だから、私は個性のすべてを理解できなかったの?」
『そうだ』
彼女の瞳が揺れる。
これまで感じていた違和感。
力を使うたびに生じる、説明のつかない制限。
そして、個性が使えなくなったこと。
すべてが、この龍と関係していたのだろうか。
『だが、先ほどの男が我の意識下に触れたことで、眠りは破られた』
龍の瞳が、オール・フォー・ワンへと向けられる。
『もはや、我を抑え込む必要はない。これより、我が力はすべてお前のものとなる』
「……全部?」
『そうだ』
その言葉の意味を理解した瞬間、彼女は息を呑んだ。
今まで制限されていた力が、すべて自分のものになる。
それはつまり、これまでとは比較にならないほどの力を手にするということだ。
何者でも、何であろうとも支配する。
その力が完全に解放されたとしたら。
世界の秩序すら、容易に変えてしまうかもしれない。
この場にいるヒーローたちも、ヴィランたちも。
そして、世界そのものも。
彼女は、背後の龍を見上げた。
「……それは、ちょっと困るわね」
『何がだ?』
「あなたの力が全部私のものになるのは分かった。でも、だからって、今ここで好き勝手に暴れられたら困るのよ」
龍の眉間に、わずかに皺が寄った。
『……好き勝手に、だと?』
「そうよ。周りを見て。建物は壊れているし、ヒーローもヴィランもいる。これ以上被害を広げるつもりはないわ」
彼女は、周囲を見渡した。
地面には大きな亀裂が走り、建物の残骸が散乱している。ヒーローたちは警戒態勢を崩せず、ヴィランたちもまた、黄金の龍を前に動けずにいた。
自分の力が、どれほど危険なものなのか。
その光景が、何よりも雄弁に物語っていた。
彼女は小さく息を吐く。