第10章 神野区の悪夢編
水面。
赤い鳥居。
そして、静かにこちらを見つめながら告げた声。
――迎えに来た。
夢の中で見た存在が、今、目の前にいる。
いや、違う。
これは夢ではない。
彼女の内側にいた存在が、現実の世界へ姿を現したのだ。
黄金の龍は、ゆっくりと首をもたげた。
その瞳が、オール・フォー・ワンを捉える。
瞬間。
男の身体が、目に見えて強張った。
「……あり得ない」
声が震えていた。
「個性を奪ったはずだ……いや、奪えるはずだった……!」
彼は自らの右手を見下ろした。
確かに、彼女の個性は流れ込んできた。
その構造も、力の広がりも、ほんの一瞬ではあるが、確かに感じ取った。
だが、そこにあったのは、彼が想定していたものとはまるで違う何かだった。
「支配……。戦略眼……。それが、この個性の本質ではなかったのか……!?」
彼女がこれまで見せてきた力。
周囲を制御し、危険を封じ、状況を支配するような能力。
その性質から、オール・フォー・ワンは彼女の個性を分析していた。
だが、今、目の前に現れたものは何だ。
ただの制御能力に、これほどの存在が宿るはずがない。
いや、そもそも。
この龍は、本当に彼女の個性そのものなのか。
それとも――。
「……僕は、一体何を起こしたというのだ……?」
初めて、オール・フォー・ワンの声から余裕が消えた。
彼は、自分が何か重大な過ちを犯したことだけは理解していた。
だが、その全貌が分からない。
分からないこと自体が、恐怖だった。
黄金の龍が、静かに口を開く。
『我が眠りを妨げし者よ』
その声が戦場全体に響き渡った。
『身の程を知れ』
直後、凄まじい圧力が一帯を襲った。
地面に亀裂が走る。
プロヒーローたちが、思わず膝をつく。
ヴィランたちもまた、その場から動けずにいた。
オールマイトでさえ、息を呑んだまま彼女を見上げていた。
「おもち……君は……」