第10章 神野区の悪夢編
だが、その瞬間だった。
――バチンッ。
何かが、弾けた。
「……?」
オール・フォー・ワンの精神の奥深くに、流れ込んでいた力が
突然、逆流する。
いや、違う。
押し返されたのだ。
自分のものになるはずだった個性が、まるで異物を拒絶するかのように、彼の精神から猛烈な勢いで弾き返された。
「な……っ!?」
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
こんなことは、今まで一度もなかった。
個性を奪う過程で抵抗を受けた経験ならある。しかし、それは持ち主の意識や個性の性質によるものだ。最終的には、自分の力でねじ伏せられる。
ところが、今の反応は違った。
まるで。
自分が、侵入してはならない場所へ足を踏み入れてしまったかのような。
その直後。
「――ぐっ……!」
オール・フォー・ワンの身体が、硬直した。
心臓を、何者かに握り潰された。
そんな錯覚に陥るほどの、凄まじい圧迫感。
息が詰まり、全身の血液が凍りついたかのように冷たくなる。
仮面の奥で、瞳が激しく揺れた。
何だ。
何が起きている。
自分は今、何に触れた?
答えを探そうとした、そのとき。
――声がした。
『……私の眠りを妨げたのは、お前か』
低く、重い声。
耳から聞こえたものではなかった。
頭の中に直接響いたわけでもない。
もっと深い場所。
精神の奥底、存在そのものを見透かすような場所から、その声は届いた。
オール・フォー・ワンの視界が、一瞬にして暗転する。
そして、目の前に現れた。
巨大な瞳。
金色の光を宿した、鋭く恐ろしい眼差し。
その瞳に射抜かれた瞬間、オール・フォー・ワンは悟った。
――見られている。
自分の記憶も、思考も、欲望も。
これまで積み上げてきたすべてを、圧倒的な存在に見下ろされている。
まるで、矮小な虫けらを観察するかのように。
「……な、に……?」
声が出ない。
心臓を握り潰すような圧力が、さらに強まった。
『我が眠りを妨げ……』
その声に、怒りが滲む。
『何をしようとした』