第10章 神野区の悪夢編
意識の底から、ゆっくりと浮かび上がってくる感覚があった。
重い。
頭の奥に靄がかかったようで、目を開けているはずなのに、周囲の景色がうまく認識できない。身体にも力が入らず、指先ひとつ動かすことさえ億劫だった。
「……ん……」
かすかな声が漏れる。
まぶたを持ち上げると、視界に飛び込んできたのは、見知らぬ男の仮面だった。
「……っ」
反射的に身を起こそうとした。しかし、身体が思うように動かない。頭がぐらりと揺れ、視界が白く霞む。
――何をされたの……?
薬品を染み込ませた布を口元に押し当てられたことは、かろうじて覚えていた。
そのせいだろうか。
頭がすっきりしない。考えようとしても思考がまとまらず、目の前の状況を把握することすら難しい。
それでも、目の前にいる男の正体だけは分かっていた。
「……オール……フォー……ワン……」
途切れ途切れに名前を呼ぶ。
その声を聞いた男が、ぴたりと動きを止めた。
「おや?」
仮面の奥から、意外そうな声が漏れる。
「もう目を覚ましたのかい?」
オール・フォー・ワンは、彼女の顔を覗き込んだ。
「そのまま眠っていてくれればよかったのに」
残念そうに言いながらも、次の瞬間には、口元に浮かぶ笑みが深くなる。
「……いや。これは、かえって好都合だ」
彼女は、その言葉の意味を理解できなかった。
理解しようとするだけの余裕もなかった。
身体を支えようとする腕に力が入らず、彼女は男に寄りかかるような姿勢のまま、ぼんやりと周囲を見渡した。
そこで初めて、自分たちが戦場のただ中にいることに気づく。
崩れた建物。立ち込める煙。地面に散らばる瓦礫。
そして、こちらを見つめる大勢のプロヒーローたち。
「……!」
マウントレディが息を呑んだ。
ベストジーニストは負傷した身体を押して立ち上がろうとし、ほかのヒーローたちも、目の前の光景に言葉を失っていた。
彼女は、オール・フォー・ワンの腕の中にいた。