第10章 神野区の悪夢編
切島の声が、轟音の中を突き抜けた。
爆豪は一瞬だけ、上空を爆速で飛びたつ緑谷たちへ視線を向ける。
緑谷出久。飯田天哉。切島鋭児郎。
助けに来やがったのか。
そう理解した瞬間、爆豪の表情が険しくなる。
「てめぇら……何しに来やがった!」
「今はそんなことを言っている場合じゃないだろう!」 飯田が声を張り上げる。
「爆豪くん!僕たちが君をここから脱出させる!」
「ふざけんな!俺は――」
「爆豪!」
切島が叫んだ。
「今は生きて帰ることだけ考えろ!」
その言葉に、爆豪の歯がぎりりと鳴る。
目の前には、オール・フォー・ワンがいる。
プロヒーローたちでさえ圧倒され、ベストジーニストすら倒された相手だ。自分たちがどれほど無謀な場所に足を踏み入れたのか、嫌というほど分かっていた。
そして。
爆豪の視線は、オール・フォー・ワンの腕の中にいる女性へと吸い寄せられた。
純白のドレス。
力なく垂れた手。
閉じられた瞳。
「…………」
息が止まった。
あいつは、何をされている。
どうして、あんな格好で。
なぜ、起きねぇ。
胸の奥が、嫌な音を立てた。
「……クソが」
彼女が連れ去られたと知ったときから、ずっと頭の片隅にあった不安。それが、目の前の光景によって最悪の形で突きつけられた。
助けなければ。
今すぐ、あの男の腕から引き剥がさなければ。
爆豪は反射的に足を踏み出しかけた。
「駄目だ!」
緑谷の声は震えていた。それでも、必死に言葉を続ける。
「今、僕たちが飛び込んでも……彼女まで助けられる保証はない!」
「ンだと……?」
オール・フォー・ワンを取り囲むプロヒーローたち。倒れたベストジーニスト。次々とワープゲートから現れるヴィラン連合。そして、彼らを前に一歩も引かずに立つオールマイト。
この状況で、彼らに何ができる。
爆豪は、答えを理解していた。
分かっている。
自分たちが相手にしているのは、雄英の教師たちですら簡単には対処できない怪物だ。学生である自分たちが正面から立ち向かえば、助けるどころか、彼女を危険にさらす可能性だってある。
それでも。
「……だからって、あいつを置いていけってのかよ」
唇を噛んだ。