第10章 神野区の悪夢編
オールマイトは、周囲の惨状を一瞥した。
傷ついたヒーローたち。崩壊した建物。集結したヴィラン連合。
そして、その中心に立つ宿敵。
「久しぶりだな……」
オール・フォー・ワンが、愉快そうに笑った。
「オールマイト」
「貴様……!」
オールマイトの拳が固く握り締められる。
長年追い続けてきた宿敵が、再び目の前にいる。
今度こそ、逃がすわけにはいかない。
そう決意した彼の視線が、男の腕元へと移った。
そして。
その表情が、凍りついた。
「……なに?」
純白のウェディングドレスをまとった女性。
整えられた髪。華やかに施された化粧。閉じられた瞳。
一瞬、何が起きているのか理解できなかった。
人質か。
そう考えた。敵の襲撃に備え、ヒーローたちへの牽制として誰かを利用しているのだと。
しかし、違った。
あの顔を見間違えるはずがない。
何度も言葉を交わした。心配し、見守り、彼女の成長を願ってきた。
そして、彼女のことを誰よりも大切に思っている人間のひとりとして。
「……おもち……?」
声が震えた。
オールマイトの目が大きく見開かれる。
彼女は眠っていた。
いや、眠らされているのだ。
なぜ、あんな姿で。
なぜ、オール・フォー・ワンの腕の中に。
何があった。
何をされた。
頭の中に、いくつもの疑問が駆け巡る。
しかし、答えを求めるより先に、怒りが込み上げてきた。
「貴様……!」
オールマイトは一歩、前へ出た。
その眼差しは、先ほどまでのものとは明らかに違っていた。
宿敵を前にしたヒーローの怒りだけではない。
大切な存在を、目の前で傷つけられた者の怒りだった。
「その子を離せ!」
轟く声が、戦場に響き渡る。
オール・フォー・ワンは、腕の中の彼女を見下ろしたあと、ゆっくりと顔を上げた。
「この子のことかい?」
まるで、何でもないことを尋ねるような口調だった。
その余裕が、オールマイトの怒りをさらに煽る。
「人質をとるとは、なんと卑劣な!!!」