第10章 神野区の悪夢編
「……え?」
目を凝らす。
見覚えのある髪。華奢な身体。見間違えるはずのない、その姿。
「……まさか」
緑谷の心臓が跳ねた。
ヴィランたちに連れ去られた、おもちだった。
「おもちさん……?」
かすれた声が、ようやく漏れた。
彼女は目を閉じたまま、オール・フォー・ワンの腕の中で眠っていた。
どうして、彼女があんな姿で抱えられているのか。
どうして、意識を失っているのか。
考えようとするほど、嫌な想像ばかりが膨らんでいく。
「……っ」
切島が息を呑んだ。
「おい……あいつ……!」
その視線の先には、もうひとりの姿があった。
「爆豪……!」
緑谷の目が見開かれる。
ヴィランたちが集まる一角。そこに、爆豪勝己の姿があった。
彼は無事だった。しかし、自由に動ける状況ではない。敵に囲まれたその姿は、明らかにこちらの存在に気づいていなかった。
助けに来たはずなのに。
爆豪を救い出すどころか、彼女まで目の前にいる。
そして、そのふたりを取り囲むのは、最も遭遇してはならない敵だった。
「……くそっ」
爆豪の声が遠くから聞こえた。
その瞬間、オール・フォー・ワンがわずかに手を持ち上げる。
「さて。そろそろ、役者を揃えようか」
男の周囲に、泥が広がった。
ワープゲートだった。
「なっ……!」
プロヒーローたちが身構えるよりも早く、次々と人影が霧の中から現れる。
死柄木弔。
荼毘。
トガヒミコ。
そして、ヴィラン連合の面々。
彼らはまるで、最初からそこに集まることが決まっていたかのように、オール・フォー・ワンの周囲へと姿を現した。
「先生!」
死柄木が声を上げる。
その隣に立つ荼毘は、周囲のヒーローたちを見渡し、口元を歪めた。
「へえ。随分と大勢でお出迎えか」
トガは、オール・フォー・ワンの腕の中にいる女性へと視線を向ける。
「わあ……綺麗なドレス。花嫁さんみたいですねえ」
その無邪気な声が、かえって不気味に響いた。