第10章 神野区の悪夢編
オール・フォー・ワンは、崩れ落ちる彼女の身体を抱き留めた。
純白のドレスが、男の腕の中で静かに揺れる。
「惜しかったね」
彼は、眠りに落ちた彼女の顔を覗き込んだ。
「だが、まだ君を手放すわけにはいかない」
外では、プロヒーローたちの猛攻が続いていた。
建物は軋み、警報が鳴り響き、敵の拠点は確実に崩壊へと向かっている。
それでも、オール・フォー・ワンの声には焦りがなかった。
「さあ、次はどうしようか」
彼女を抱えたまま、男はゆっくりと顔を上げる。
仮面の奥の視線が、再びモニターへと向けられた。
救出の手は、すぐそこまで迫っていた。
轟音とともに、建物の一角が崩れ落ちた。
もうもうと立ち込める粉塵。その向こうから、ひとつの人影がゆっくりと姿を現す。
「……っ!」
ベストジーニストは、その姿を認めた瞬間、全身に緊張を走らせた。
異様な威圧感。
仮面をつけた男が、白いドレスをまとった女性を抱えている。その光景だけで、目の前の存在が誰なのか、理解するには十分だった。
「まさか……!」
「久しぶりだね、ヒーロー諸君」
オール・フォー・ワンは、まるで旧友にでも挨拶するように、穏やかな声を響かせた。
その瞬間、ベストジーニストが動いた。
「全員、距離を取れ!」
彼の個性によって、周囲に散らばる繊維が一斉に動き出す。崩れた建物の中から、衣服の繊維が引き抜かれ、幾重もの糸となってオール・フォー・ワンへと殺到した。
「捕縛する!」
無数の繊維が男の腕や胴体に巻きつき、瞬く間にその動きを封じる。
しかし。
「……なるほど。」
オール・フォー・ワンは、感心したように呟いた。
次の瞬間、空気が震えた。
「だが、相手が悪かった」
男の身体から、複数の個性が同時に放たれる。
衝撃波が周囲を薙ぎ払い、ベストジーニストの拘束を一瞬で引き千切った。
「ぐっ……!」
彼の身体が大きく弾き飛ばされる。
「ベストジーニスト!」
プロヒーローたちが叫ぶ。
直後、凄まじい爆風が一帯を飲み込んだ。
地面が抉れ、建物の残骸が吹き飛ぶ。周囲にいたヒーローたちも、反応する間もなく衝撃にさらされた。