第10章 神野区の悪夢編
「君のその気の強さも、反抗心も、すべて含めて気に入ったと言っているんだ」
彼女の目が細くなる。
この男は、拒絶さえも楽しんでいる。
こちらが抵抗すればするほど、彼の興味を煽ってしまう。そんな歪んだ執着が、ひしひしと伝わってきた。
「……本当に、救いようのない変態ね」
「それは光栄だ」
「褒めてないわ」
「分かっているとも」
オール・フォー・ワンは、愉快そうに肩を揺らした。
彼女は拳を握り締める。
個性は使えない。ここがどこなのかも、外に何人の敵がいるのかも分からない。目の前の男を倒したところで、無事に脱出できる保証などどこにもなかった。
――絶対に、こんな男の思いどおりにはならない。
彼女は、仮面の奥にある視線を真っ向から受け止めた。
「覚えておきなさい、オール・フォー・ワン」
静かな声が、室内に響く。
「あなたが何を企んでいようと、私はあなたの所有物にはならない」
その言葉に、男はしばらく黙っていた。
そして、まるで待ち望んでいた答えを聞いたかのように、ゆっくりと口を開いた。
「……ああ。ますます、君を手放したくなくなったよ」
その瞬間、彼女は悟った。
この男にとって、自分の拒絶は障害ではない。
むしろ、彼の執着を深める理由にすらなってしまうのだ。
そしてそれこそが、彼女が今まで対峙してきたどんな敵とも違う、オール・フォー・ワンという男の最も厄介なところだった。