第3章 USJ襲撃事件編
蛙吹も頷いた。
「新しい一面ね」
「……忘れて」
「無理だろ」
爆豪が後ろから言った。
「……爆豪くん」
「何だよ」
「忘れて」
「無理だっつってんだろ」
「……」
彼女は完全に黙り込んだ。
その横で轟が口を開く。
「でも、寝てたのは本当だ」
「……!」
彼女が勢いよく振り向く。
「轟くん!」
「?」
「それはもう言わなくていいから……!」
轟は少し考えた。
「分かった」
あまりにも素直だった。
それが逆に恥ずかしい。
彼女は顔を伏せたまま、耳まで真っ赤にしている。
そんな彼女を見て、上鳴がまた笑った。
「なあ、轟!」
「何だ」
「もう一回肩貸してやってよ!」
「必要なら」
「必要じゃない!」
彼女が即座に叫ぶ。
「はははは!」
バス中に笑い声が響く。
彼女は両手で顔を覆った。
――こんな失態、今まで一度もなかった。
公安の任務でも、学校でも、どんな状況でも、常に周囲を見ていた。
眠ることすら、無意識に避けていたはずなのに。
今日は、ただ疲れていた。
そして、隣にいた轟の肩に寄りかかり、何も警戒せずに眠ってしまった。
「……最悪……」
小さく呟く。
けれど、その声には怒りよりも恥ずかしさが滲んでいた。
そんな彼女を見て、轟は静かに思う。
――やっぱり、普通の高校生みたいだ。
そして彼女自身はまだ知らない。
この日からしばらく、「寝顔の彼女」という新しい話題が、1年A組の中で密かに定着してしまうことを。
訓練場に到着し、歩き出す彼女の後ろ姿を見て、クラスメイトたちは顔を見合わせる。
そして轟だけは、いつものように静かに彼女の背中を見送っていた。
今日初めて知った。
あれほど隙のない彼女にも、ちゃんと、恥ずかしがることがあるのだと。