第10章 神野区の悪夢編
「……何、これ……」
指先が、わずかに震える。
どうして、自分がこんなものを着せられているのか。
誰が、何の目的で。
考えようとするほど、頭の中が混乱していく。
彼女はベッドから立ち上がり、ふらつく足を踏みしめながら、部屋の隅にある姿見へと向かった。
そして、鏡に映った自分を見て、完全に言葉を失った。
そこにいたのは、見慣れた自分の顔をした、見知らぬ女性だった。
髪は丁寧に整えられ、顔には普段の彼女が施すことのない、華やかな化粧が施されている。
目元は繊細な色彩で彩られ、長い睫毛が影を落としていた。そして、唇には鮮やかな赤い口紅。
純白のドレスと、深い赤。
対照的な色彩が、彼女の顔立ちを際立たせている。
普段から美しいと言われることはあった。
けれど、鏡の中にいる女性は、いつもの彼女とはまるで違っていた。
どこかの雑誌から抜け出してきた花嫁のようで。
まるで、誰かに見せるためだけに、隅々まで作り上げられた人形のようだった。
「…………」
彼女は鏡に近づいた。
そっと頬に触れる。
指先に感じる肌の感触は、自分のものだ。
目の前にいるのも、自分。
それなのに、この姿が自分なのだと認識するまでに、ずいぶんと時間がかかった。
「……悪趣味ね」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど冷たかった。
恐怖がないわけではない。
むしろ、背筋を這い上がるような不気味さが、ずっと消えずにいる。
それでも、彼女は鏡から目を逸らさなかった。
動揺したところで、状況は変わらない。
まずは情報を集める。
ここがどこなのか。自分を連れてきたのは誰なのか。そして、この格好をさせた目的は何なのか。