第9章 林間合宿
個性が使えなくなった彼女が、どんな思いで過ごしているのか。
あの森で、必死に走り、仲間を導いていた姿が脳裏に浮かぶ。
自分の力が使えなくても、できることを探していた。
それなのに、敵は彼女の弱った状態につけ込もうとしている。
「ふざけるな……!」
緑谷は拳を握りしめた。
「彼女は、物じゃない!」
荼毘は興味なさそうに目を細める。
「そんなこと、俺に言われても困るね」
「どこにいるのか答えろ!」
「知らねぇよ。少なくとも、今ここにはいない」
荼毘は顔を背けた。
「ボスが欲しがってるのは、あの女の個性だ。本人をどう扱うかまでは、俺の知ったことじゃねぇ」
その言葉を聞いた瞬間、緑谷の脳裏に最悪の可能性が浮かんだ。
彼女が、個性を奪われる。
二度と元に戻らないかもしれない。
それどころか、個性を失ったまま、敵の手の中で何をされるかも分からない。
「……絶対に、助ける」
緑谷は低く呟いた。
「爆豪くんも、おもちさんも……絶対に取り戻す」
轟が隣に立つ。
その表情にも、隠しきれない怒りが浮かんでいた。
「彼女の個性を奪わせるわけにはいかない」
障子も、常闇を支えながら静かに頷いた。
だが、荼毘はそんな彼らの決意を嘲笑うように、口元を歪めた。
「好きにしな。だが、忠告しておくぜ」
青い炎が、彼の指先に小さく灯る。
「お前らが思ってる以上に、あの女は厄介な存在かもしれねぇぞ」
「……どういう意味だ?」
緑谷が問い返す。
しかし、荼毘はそれ以上答えなかった。
炎を消し、興味を失ったように視線を逸らす。
「さあな。本人に聞いてみたらどうだ?」
その言葉だけを残し、彼は闇の向こうへと歩き出した。