第9章 林間合宿
「……」
緑谷は、敵の一人をまっすぐに見据えた。
青い炎を操る男は、壁にもたれかかるようにして、面倒くさそうにこちらを眺めている。
「おもちさんをどこに連れ去った?」
その問いに、荼毘は一瞬だけ目を細めた。
「……ああ、あの女か」
まるで、たいしたことではないとでも言うような口ぶりだった。
緑谷の拳に力がこもる。
「どこにいるんだ!」
「そう急かすなよ。そんなに気になるのか?」
荼毘は口元を歪めた。
「体育祭、見てたぜ」
「……!」
「派手な個性だったよな。周囲の状況を支配するような、あの妙な力。攻撃を防ぐだけじゃねぇ。使い方次第じゃ、戦場そのものをひっくり返せる」
荼毘は、まるで興味深い玩具について語るように続けた。
「ボスは、あの個性にいたく興味を示していた」
緑谷の表情が強張る。
「……どういう意味だ」
「さあな。俺はボスの考えを全部知ってるわけじゃねぇ」
荼毘は肩をすくめた。
「ただ、あれだけ欲しがってるんだ。しかもあんな美人、そうそう見かけねぇ。何をするつもりかなんて、想像つくだろ?」
その言葉に、緑谷の背筋が凍った。
個性だけでなく、彼女自身を、欲しがっている。
「……個性を、奪うつもりなのか?」
荼毘は答えなかった。
ただ、薄く笑っただけだった。
その沈黙が、何よりも雄弁だった。
「そんな……!」
緑谷は息を呑んだ。
彼女は今、個性を使えない。
その状態を敵に知られている。
しかも、彼女の個性を狙っている者がいる。
「おもちさんは、今、個性が使えないんだ!」
思わず声が大きくなる。
「そんな彼女から、何を奪うっていうんだよ!」
「だからこそ、だろ」
荼毘の声は冷たかった。
「抵抗できない相手を捕まえる。欲しいものを手に入れる。ヴィランらしい話じゃねぇか」
「……っ!」
緑谷の全身に怒りが走った。