第9章 林間合宿
おもちのことだ。
爆豪と同じく、ヴィラン連合の標的になっているはずの彼女。
ここまでの道中、一度も姿を見ていない。
「……ミスターコンプレス」
緑谷は拳を握りしめた。
「おもちさんは、どこにいる!?」
その問いに、男は一瞬だけ目を細めた。
そして、待っていましたとばかりに口元を吊り上げる。
「ああ、あのお嬢さんですか」
緑谷の心臓が、嫌な音を立てた。
「一足先に、僕らの島にご案内しましたよ」
「…………は?」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
島。
案内した。
その言葉の意味を理解した瞬間、緑谷の表情が凍りつく。
「……連れて行った、ってことか?」
轟の声が低くなる。
「その通り」
ミスターコンプレスは、悪びれる様子もなく頷いた。
「彼女はなかなか抵抗してくれましてね。いやあ、実に気骨のあるお嬢さんでしたよ」
緑谷の脳裏に、最後に見た彼女の笑顔が浮かんだ。
『ちょっと疲れちゃった。今日は先に施設に戻るね』
あのとき、彼女はいつも通りだった。
心配させないように笑っていた。
そして、一人で帰っていった。
「……嘘だ」
緑谷の声が震えた。
ミスターコンプレスは、楽しそうに答えた。
「個性が使えないなら、実に好都合!この機を逃すわけにはいきませんので」
その一言で、全員の表情が変わった。
個性が使えない。
その情報を、敵が把握している。
彼女の状態を知っている者は限られているはずだった。
なのに、ミスターコンプレスは何のためらいもなく口にした。
「……お前ら、どこまで知ってやがる」
轟が一歩前に出る。
氷が、足元から静かに広がり始めた。
「おもちをどうするつもりだ」
「さて。それは僕の口から申し上げることではありませんね」
ミスターコンプレスは肩をすくめた。
「ただ、ボスが彼女をたいそう気に入っていらっしゃる。それだけは確かです」
「ふざけるな……!」
緑谷は歯を食いしばった。
彼女は戦えない。
個性を失ったまま、敵の本拠地へ連れ去られた。
しかも、爆豪と常闇まで捕まっている。
「返せ……」
緑谷の声が低くなる。
「かっちゃんも、常闇くんも……それに、おもちさんも!」