第9章 林間合宿
「爆豪!?常闇もいないぞ!!」
轟が鋭く叫ぶ。
障子も腕を広げ、周囲の気配を探った。
「いつ消えた……!?」
「そんな……!さっきまで、すぐ後ろに……!」
緑谷は呆然と立ち尽くした。
誰も気づかなかった。
爆豪と常闇がいなくなった、その瞬間に。
「……まさか」
轟の視線が、ゆっくりと森の奥へ向けられる。
その先に、ひとつの影があった。
シルクハット。
洒落た服装。
そして、余裕たっぷりの笑みを浮かべた男。
「おやおや。ずいぶんと警戒なさっているようで」
男は芝居がかった仕草で一礼した。
「お初にお目にかかります。私はミスターコンプレス」
緑谷の目が見開かれた。
男の指先で、何かが揺れている。
水色の、小さなビー玉。
その透明な球体の中に、黒い影と金色の髪が見えた。
「……っ!!」
緑谷が息を呑む。
「かっちゃん……!?」
ビー玉の中に閉じ込められていたのは、爆豪勝己だった。
そして、もう一つ。
別のビー玉の中には、常闇の姿がある。
「爆豪くんと常闇くんを……!」
麗日が口元を押さえた。
「そんな……いつの間に……!」
「おや。お気づきになられましたか」
ミスターコンプレスは、まるで手品を披露した舞台役者のように、両手を広げた。
「いやはや、驚いていただけたなら何より。これぞ奇術師の本懐というものです」
「ふざけるな!!二人を返せ!!」
緑谷が叫ぶ。
身体の痛みも忘れ、男へと駆け出そうとした。
だが、轟が腕を伸ばして制止する。
「待て、緑谷!迂闊に近づくな!」
「でも、かっちゃんが……!」
「分かってる!だからこそ、冷静になれ!」
轟の声にも焦りが滲んでいた。
敵は二人を一瞬で捕らえた。
どんな個性なのか、どこまでのことができるのか、まだ分からない。
下手に動けば、残る自分たちまで捕まる可能性がある。
しかし、緑谷にはそれ以上に気になることがあった。