第9章 林間合宿
「……まだ、決まったわけじゃない」
轟が静かに言った。
「そうだよ。まだ、何も……」
緑谷も続けようとしたが、言葉が途切れた。
彼女が無事だと信じたい。
けれど、目の前にあるものが、その希望を少しずつ削っていく。
「施設に戻れば、誰かが見ているかもしれない」
障子が努めて冷静に告げた。
「今は急ごう。彼女を探すにも、まずは状況を確認しなければ」
正しい判断だった。
それでも、爆豪は動かなかった。
彼の脳裏には、彼女が別れ際に浮かべた笑顔が焼きついていた。
『ちょっと疲れちゃった。今日は先に施設に戻るね』
あれが、最後だった。
もう一度、あの顔を見たい。
いつも通りの声を聞きたい。
そんな考えが頭をよぎった瞬間、爆豪は自分の感情に苛立つように顔を歪めた。
「……行くぞ」
低く、絞り出すような声だった。
「俺が見つける」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分かっていなかった。
ただ、ここで立ち止まっているわけにはいかなかった。
五人は再び走り出す。
土埃にまみれたエプロンを、障子が大切に握りしめたまま。
夜の森は、どこまでも暗かった。
彼女がどこにいるのか。
今、何が起きているのか。
それを知る者は、まだ誰もいない。
ただ一つ確かなのは、彼女がまだ誰とも合流していないということ。
そして、その事実が五人の胸に、最悪の予感を刻みつけていた。