第9章 林間合宿
「お前には、まだ利用価値がある。だから殺しはしねえよ」
その言葉が、かえって恐ろしかった。
「……っ、やめて!だれか、誰か助けて!!!」
夜の森に向かって必死に叫ぶ。
腕を引くが、荼毘は力を緩めない。
炎の向こうから、黒い霧のようなものがゆっくりと広がってきた。
「時間だ、荼毘」
聞き覚えのない声。
霧の中心に、何かがいる。
人の形をした、黒い靄。
ワープゲート。
彼女はその正体を直感的に理解した。
「……まさか。USJの時の…!」
「正解。話が分かるじゃねえか」
荼毘は彼女の腕を掴んだまま、霧へと引き寄せた。
「離して!誰か――!」
初めて、声が裏返った。
その瞬間、彼女の脳裏にクラスメイトたちの顔が浮かんだ。
芦戸の笑顔。
麗日の優しい声。
轟の静かな横顔。
そして、いつも苛立ったような顔をしながら、何かと自分を気にかけていた爆豪。
――みんな。
――気づいて。
彼女は最後の力を振り絞り、荼毘の腕を振りほどこうとした。
だが、足元が黒い霧に呑まれる。
視界が歪み、森の景色が遠ざかっていく。
「くっ……!」
彼女は手を伸ばした。
何かに掴まろうとした指先は、空を切った。
最後に見えたのは、青い炎に照らされた荼毘の顔だった。
「ようこそ、ヴィラン連合へ」
その言葉を聞きながら、彼女の姿は闇の中へと消えた。