第9章 林間合宿
あのとき、土の魔獣が自分を恐れた理由。
ラグドールが見たという龍。
自分の内側に、まだ何かが残っているのなら。
今だけでもいい。
応えてほしい。
けれど、無慈悲になことに何も起こらなかった。
手のひらに、かすかな熱さえ感じない。
「……っ」
絶望が、胸の奥からせり上がる。
自分は今、ただの一人の人間だ。
相手はヴィラン。
助けを呼ぼうにも、肝試しに出かけたクラスメイトたちは離れた場所にいる。ここで大声を上げても、炎の音にかき消されるかもしれない。
それでも、諦めるわけにはいかなかった。
彼女は視線を走らせた。
荼毘の足元。炎の広がり。背後の木々。
一瞬でも隙があれば。
そのときだった。
荼毘が、彼女の腕を掴んだ。
「っ、離して!」
彼女は反射的に腕を捻り、男の手から逃れようとする。
だが、荼毘はびくともしなかった。
「おっと。意外と元気じゃねえか」
「誰が……あなたたちのところになんか!」
彼女は空いている手で男の腕を打ち、足を踏み込んだ。
体勢を崩せれば、逃げられる。
そう判断した一撃だった。
しかし荼毘は、わずかに身体を傾けただけでそれを避けた。
「なるほど。個性がなくても、抵抗する気はあるってわけか」
彼は面白そうに目を細めた。
「だが、残念だったな」
掴まれた腕のすぐそばで、青い炎が揺らめく。
彼女は息を呑んだ。