第9章 林間合宿
目の前の敵から逃げなければならない。
彼女は視線を動かし、炎の隙間を探した。
正面突破は不可能。
左側の斜面は急すぎる。右側は炎が広がり、迂回するには時間がかかる。
ならば――。
「……っ!」
彼女は地面を蹴った。
炎の切れ目を狙い、右側の木々へと飛び込む。
「逃がすわけねえだろ!!」
荼毘が腕を振る。
青い炎が彼女の進路を横切り、目の前の木を包み込んだ。
「っぐ……!」
熱風に押し戻され、彼女は地面に膝をついた。
手のひらに土が食い込む。
顔を上げた瞬間、荼毘がすぐ目の前に立っていた。
「無駄だ。お前がどこに逃げようと、俺の炎からは逃げられねえ」
彼女は立ち上がろうとした。
そのとき、足元がふらつく。
個性を失ってから、身体の使い方まで分からなくなったわけではない。走れる。戦える。逃げることだってできる。
けれど、相手は炎を自在に操るヴィランだ。
まともに戦えば、今の自分に勝ち目はない。
それでも、身体が警告しているみたいだった。
――逃げなきゃ……!!
彼女は歯を食いしばり、再び走り出した。
枝が頬をかすめ、細い蔓が足に絡む。転びそうになるのをこらえながら、少しでも炎から離れようと森の奥へ駆け込んだ。
背後から、荼毘の声が追いかけてくる。
「おいおい。そんなに必死にならなくてもいいだろ」
「誰が……あなたなんかに!」
振り返らずに叫ぶ。
「誰か!!たすけて!」
「そうかよ」
その声が、急に近くなった。
彼女が振り返るより早く、青い炎が進行方向を覆い尽くした。
「っ……!」
足を止める。
前にも、後ろにも、炎。
熱気が皮膚を刺し、呼吸するたびに喉が焼けるようだった。
逃げ場がない。
彼女は震える指を握りしめた。
――お願い
――戻ってきて
――私の個性……!
何度も、何度も、心の中で呼びかける。