第9章 林間合宿
ヴィラン連合。
雄英高校襲撃事件で、その存在が確認された敵集団。
きっと目の前の男は、その一員だ。
しかも、ただの構成員ではない。彼の全身から漂う、異様なほど冷たい気配。こちらの反応を楽しむような視線。
話し合いでどうにかなる相手ではない。
「迎えに来た、というのは?」
声は震えなかった。
彼女は相手から目を離さず、周囲の地形を確認する。
右手には木々が密集している。左手は斜面。背後は来た道。
施設までは、まだ距離がある。
そして、今の自分には個性がない。
(どうする・・・まずは時間を稼ぐか)
荼毘が片手を持ち上げた次の瞬間、
ゴウッ!!
青い炎が、夜の森を照らした。
「っ……!」
炎は彼女の左右から立ち上り、瞬く間に退路を塞いだ。
熱気が頬を焼く。
青い光が、彼女の瞳に映り込んだ。
「ボスがお前を欲しがってる」
荼毘は淡々と言った。
「こっちへ来い」
命令だった。
拒否を許さない、絶対的な命令。
彼女は一歩、後ずさった。
「……どうして、私なの?」
「さあな。俺は言われた通りに迎えに来ただけだ」
荼毘は首を傾げる。
「ま、今のお前なら楽勝だって話だ。個性、使えねえんだろ?」
心臓が、嫌な音を立てた。
――なぜ、知っている?
個性が使えないことを知っているのは、雄英の教師陣と、事情を説明されたA組の生徒たちだけのはずだった。
林間合宿に参加している生徒の中でも、その事実を知る者は限られている。
それなのに、目の前のヴィランは知っていた。
しかも、彼女を狙ってきた。
偶然ではない。
「……誰から聞いたの?」
「質問ばっかりだな」
荼毘が笑う。
「答える義理があると思うか?」
青い炎が、さらに勢いを増した。
木々の間を塞ぐように炎が伸び、彼女の逃げ道を一つずつ奪っていく。
彼女は歯を食いしばった。
情報が漏れている。
しかも、敵は彼女の個性が使えない時期を狙ってきた。
やはり雄英内部に、情報を流している者がいる。
疑念が、確信に変わる。
――本当に、内通者がいる。
だが、今はそのことを考えている場合ではなかった。