第9章 林間合宿
「……おかしい」
思わず、小さく呟く。
個性が消失したのか。
それとも、何か別の理由があるのか。
だが、どれだけ確認しても、答えにつながる情報は見つからなかった。
ラグドールは困惑しながらも、もう一度だけ、彼女の姿を注意深く捉えた。
その瞬間だった。
視界の奥に、何かが揺らめいた。
「……え?」
それは、文字でも数字でもなかった。
彼女の身体の周囲に、淡い光をまとった龍がいた。
巨大な姿ではない。輪郭ははっきりしているようで、どこか幻想的だった。長い身体をしなやかにくねらせ、彼女の周囲をゆっくりと巡っている。
まるで、彼女を守るように。
龍は彼女の肩のあたりに寄り添い、身体を包み込むようにふわりと浮かんでいた。
彼女が動けば、その動きに合わせて静かに漂う。
彼女が誰かに飲み物を手渡せば、龍もまた、その背後でゆるやかに身を揺らした。
その姿は、ほかの誰にも見えていないようだった。
息を呑んだ。
個性の情報は見えない。
彼女の周囲には、確かに何かが存在している。
それは単なる個性の残滓とは思えなかった。
まるで、彼女自身をひとつの存在として認め、その身を守ることを選んでいるかのようだった。
「……いったい、……」
ラグドールは思わず呟いた。
その声が聞こえたのか、彼女が顔を上げる。
「?」
視線が合った。
ラグドールは慌てて表情を整えたが、彼女はそのわずかな動揺を見逃さなかった。
何かを探るような視線。
自分の周囲を見ていたような、妙な間。
彼女は少しだけ緊張した面持ちで、そばへ歩み寄った。
「……あの」
「ん?どうしたの?」
「先ほど、私のことを見ていらっしゃいましたよね?」
責めるような口調ではなかった。
ただ、確かめたいという気持ちがにじんでいる。
「もしかして……何か見えましたか?」
その問いに、ラグドールはすぐには答えられなかった。
彼女の表情には、ほんのわずかな不安が浮かんでいた。
個性が使えなくなってから、彼女自身も自分の身体に起きていることを理解できずにいるのだろう。
そんな彼女に、今見えたものをどう伝えればいいのか。
慎重に言葉を選んだ。
「あなたの個性について、少し確認しようと思ったの。でも……不思議ね。いつもなら分かるはずの情報が、何も見えなかったわ」