第9章 林間合宿
林間合宿三日目。
朝から森には、生徒たちの声と個性を発動する音が響き渡っていた。
昨日に引き続き、A組もB組も、それぞれの課題に取り組んでいる。体力を限界まで引き出す者、個性の出力を調整する者、新たな使い方を模索する者。誰もが、自分の力を伸ばそうと必死だった。
その一方で、おもちは昨日と同じように、生徒たちのサポートに回っていた。
飲み物を配りながら、一人ひとりの顔色を確かめる。
「切島くん、腕の傷は大丈夫?」
「おう!これくらい平気だぜ!」
「平気でも、傷口は清潔にしておかないと」
「ははっ、さすがだな!」
彼女は微笑み、次の生徒へと視線を移した。
個性を使えないことへの戸惑いは、まだ消えていない。
けれど、今はできることをする。
それが彼女なりの答えだった。
そんな彼女の姿を、少し離れた場所からじっと見つめている人物がいた。
ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの一人、ラグドールである。
「……あの子が、例の?」
ラグドールは興味深そうに目を細めた。
相澤から、彼女の個性が使えない状態にあることは聞いていた。初日の魔獣の森でも、何か不可解な出来事があったらしい。
もともと生徒たちの状態を把握する立場として、彼女の様子は気になっていた。
それに、ラグドールの個性は、人を見ればその人物の情報や弱点を把握できるものだ。
今の彼女がどのような状態にあるのか。
個性に関する情報が得られれば、何か助言ができるかもしれない。
彼女に気づかれない程度に視線を向け、個性を発動した。
対象を捉える。
情報を読み取る。
――そのはずだった。
「…………ん?」
ラグドールの眉が、ぴくりと動いた。
もう一度、彼女を見つめる。
個性を発動し、対象の情報を確認する。
しかし、期待した結果は得られなかった。
彼女の身体的な情報は認識できる。そこにいるのは間違いなく、一人の少女だ。
個性に関する情報が、見当たらない。
通常ならば、その人物が持つ個性について、何らかの情報が表示されるはずだった。個性の特徴や弱点を探ることが、ラグドールの得意とするところである。
それなのに、彼女については何も出てこない。
個性が使えない状態であっても、個性そのものの情報まで消えるわけではないはずだ。