第9章 林間合宿
「……ねえ、みんな」
「ん?」
「これってさ……なんか、新妻みたいじゃない?」
「ぶっ!?」
上鳴が吹き出した。
「お、おまっ、何言ってんだよ!」
「だって!エプロン姿で、手際よく料理して、みんなのこと気遣って……ねえ、そう思わない!?」
「た、確かに……!」
麗日も、彼女の姿を見て頬を染める。
「なんだか、すごく家庭的な感じがする……」
「いつもお綺麗ですけれど、今日はまた違った魅力がありますわね」
八百万も、うっとりと目を細めた。
「まるで、帰ってきた旦那様に『おかえりなさい』って迎える奥様みたい……!」
彼女は困ったように笑ったが、頬にはほんのりと赤みが差していた。
普段の華やかなギャル系の私服と、落ち着いた色合いのエプロン。その組み合わせが妙に似合っている。長い黒髪をまとめ、慣れた手つきで料理をする姿は、どこか新婚の若妻を思わせた。
男子たちも、つい視線を向けてしまう。
「……ああいうの、いいよな」
瀬呂がぽつりと呟く。
「分かる……」
上鳴が妙に真剣な顔で頷いた。
「帰ったらあんな美人がいて、飯ができてたら……最高じゃね?」
「お前ら、本人に聞こえるぞ」
切島が苦笑する。
少し離れたところで作業していた轟は、彼女の姿を静かに見つめていた。
そして、隣にいた爆豪も。
彼は何も言わなかったが、包丁を持つ彼女の手元から、エプロン姿、そして柔らかな笑顔へと、視線が移っていた。
昼間、魔獣に捕らえられたときの彼女は、今にも消えてしまいそうなほど危うかった。
けれど今は、皆の輪の中心で、誰よりも自然に笑っている。
個性が使えなくても、彼女は彼女のままだ。
そんな当たり前のことを、改めて突きつけられた気がした。
やがて、鍋からカレーの香りが立ち上り始める。
二つのクラスが協力して作った、たっぷりのカレー。
誰かが野菜を切り、誰かが鍋をかき混ぜ、誰かが食器を並べる。
その中心で、彼女もまた、できることをひとつずつ積み重ねていた。
個性が使えない今の自分に、何ができるのか。
まだ、その答えは見つかっていない。
けれど少なくとも、この場所には、自分を必要としてくれる人たちがいる。
そのことが、彼女の胸をほんの少しだけ温かくしていた。