第9章 林間合宿
林間合宿二日目。
朝食を終えた生徒たちが訓練場へ向かうなか、相澤消太は施設の一角で腕を組み、難しい顔をしていた。
「……さて、どうしたもんか」
視線の先には、訓練場で準備運動をするA組の生徒たち。その中に、個性を使えなくなったおもちの姿はない。
個性が使えないことは、すでにクラス全員が知っている。本人も普段どおりに振る舞っているが、昨日の魔獣の森での一件を考えれば、無理をさせるわけにもいかなかった。
かといって、基礎体力の強化だけを続けさせるにも限界がある。
彼女はもともと体力がないわけではない。昨日の森でも、個性を使わずに走り抜け、仲間たちに指示を出し続けていた。だが、今まで個性を前提に組み立ててきた訓練を、単純に体力づくりへ置き換えればいいという話でもない。
そもそも、彼女の個性がいつ戻るのかさえ分からないのだ。
「イレイザー、何か悩んでいるの?」
声をかけてきたのは、マンダレイだった。
「おもちのことだ。個性が使えない以上、ほかの生徒と同じ訓練をさせるわけにはいかない。かといって、何もさせずに休ませるのも……」
「個性が、いわゆるスランプ状態に陥っているのだとしたら?」
マンダレイは少し考えるようにしてから、穏やかに続けた。
「今は無理に何かをさせるより、心と身体を休ませてあげたらどうかしら。使えないことを意識し続けるのも、きっと本人には負担でしょう?」
「……まあ、そうだな」
「それに、休むことだって大切な訓練の一部よ。焦って無理をさせたところで、いい結果につながるとは限らないわ」
相澤は小さく息を吐いた。
確かに、彼女は何も言わない。
個性が使えなくなったことについても、必要以上に周囲を心配させまいとしている節がある。普段どおりに笑い、普段どおりに仲間を支えようとする。
だからこそ、本人がどこまで負担を感じているのか、判断が難しかった。
「……だが、本人の性格を考えると、ただ休めと言っても大人しくしているかどうか」
「ふふっ。それなら、簡単なお手伝いをお願いしたらいいんじゃない?」
マンダレイは、ぱっと表情を明るくした。