第9章 林間合宿
施設にたどり着いた頃には、すでに夕方になっていた。
「つ、着いたぁぁぁ……!」
上鳴が玄関先で膝に手をつき、情けない声を上げる。
「もう一歩も動けねぇ……」
「情けないこと言ってんじゃねぇ!」
爆豪が怒鳴るものの、その制服も土埃にまみれ、頬や腕には細かな擦り傷ができていた。いつもの勢いは健在だが、さすがに疲労は隠せない。
ほかの生徒たちも似たようなものだった。制服は泥や土埃で汚れ、髪は乱れ、あちこちに擦り傷がある。個性を駆使して何とか森を突破したものの、三時間近く走り続けた疲労は相当なものだった。
そんな彼らを待っていたのは、豪華な夕食だった。
「うわぁっ!すげぇ!めっちゃうまそう!」
「おかわりあるよな!?」
食堂に入るなり、男子たちは歓声を上げた。大皿に盛られた料理を前に、さっきまで疲れ果てていたとは思えない勢いで箸を動かしていく。
「お前ら、よくそんなに食べられるわね……」
芦戸が呆れながらも笑う。
「腹が減っては戦はできぬ、だ!」
飯田も疲れた身体に鞭打つように、きちんと食事を進めていた。
その賑やかな食堂の一角で、おもちは静かに箸を動かしていた。
目の前には、彩りよく盛りつけられた料理が並んでいる。どれも美味しそうだったし、朝から何も食べていないに等しいのだから、空腹を感じていてもおかしくはない。
それなのに、どうにも食欲が湧かなかった。
箸で料理を少しずつ口に運んではみるものの、味があまり頭に入ってこない。
脳裏に浮かぶのは、森での出来事だった。
あの土魔獣は、確かに自分を捕らえていた。
個性を使うこともできず、逃げることすらままならなかった。死の恐怖を感じたあの瞬間、彼女はただ、目の前の魔獣をにらみつけただけだった。
それなのに、あの魔獣は、まるで怯えたように自分を解放した。
――いったい、何が起きたの?
何度考えても、答えは出ない。
個性が戻ったわけではない。身体の奥底に意識を向けても、あの力の感覚はまったく感じられなかった。
ならば、あの現象は何だったのか。
考えれば考えるほど、分からなくなる。