第9章 林間合宿
走って、走って、走り抜ける。
木々の間を縫うように駆け、足元の悪い斜面を跳び越えながら、彼女は絶えず周囲に目を配っていた。
「そのまま直進して!右手の木々が途切れているところから抜けられるはずよ!」
「了解だ!」
「左は俺が塞ぐ!」
轟の氷が地面を走り、爆豪の爆発が魔獣の進行を妨げる。緑谷たちも、それぞれの個性を駆使して森を突破しようとしていた。
彼女は彼らの動きを確認しながら、次の進路を探す。
個性が使えない以上、仲間たちのように魔獣を蹴散らすことはできない。それならば、彼らが力を発揮しやすい状況を作る。それが今の自分にできる最善の策だった。
指示を出し、仲間たちを導く彼女の存在を、魔獣もまた認識していた。
一体の土魔獣が、彼女の動きを追うように向きを変える。
「……っ!」
気づいたときには、遅かった。
巨大な腕が、彼女めがけて振り下ろされる。
ドォンッ!!
轟音とともに地面が砕け、土埃が一帯を覆い尽くした。
「おいっ!!」
爆豪の怒号が響く。
「おもちさん!?」
緑谷が振り返り、轟も思わず動きを止めた。
舞い上がった土埃の向こう。巨大な土魔獣の腕が、何かを握り込んでいる。
その手の中にいたのは、彼女だった。
「っ、おもち!!」
爆豪が駆け出そうとする。
けれど、目の前には別の魔獣が立ちはだかっていた。爆発で吹き飛ばそうにも、彼女を捕らえている魔獣に攻撃が届けば、彼女まで巻き込んでしまう。
轟が氷を放とうと構えるが、わずかに躊躇した。
土魔獣の指が、ゆっくりと閉じていく。
彼女の身体を押し潰そうとする、巨大な圧力。
「……っ、かは……!」
息が詰まる。
腕を動かそうにも、身動きが取れない。少しでも力を込められれば、骨が軋みそうだった。
まずい。
このままでは、本当に潰される。
彼女は必死に息を整えながら、魔獣の手の中で身じろぎした。
どうにかして抜け出さなければ。
けれど、逃げるための隙間すらない。
――こんなとき、個性が使えたら。
心の奥底から、切実な願いが込み上げる。
いつもなら。
ほんの少し意識を向けるだけで、そこにあるはずの力に触れられた。自分の領域を広げ、迫る脅威を退けることができたはずだった。