第9章 林間合宿
一方、おもちは一歩下がり、周囲を見渡していた。
魔獣の数。突進の方向。足場の状態。木々の密度。
個性が使えない以上、正面から力で押し切る選択肢はない。
ならば、どう動くか。
(正面から戦う必要はない。目的は魔獣の撃破ではなく、合宿所への到達……)
彼女は、魔獣たちが現れた森の奥へと目を向けた。
土くれでできた巨体は強力だが、動くたびに足元の土が崩れている。地形の影響を受けるなら、誘導できる可能性がある。
「みんな!無理に倒そうとしないで!進路を確保することを優先して!」
彼女の声が、混乱するクラスメイトたちに届いた。
「おもちの言う通りだ!合宿所へ向かうのが目的だぞ!」
飯田がすぐに続ける。
「よし!突破するぞ!」
切島が声を上げた。
しかし、魔獣たちは一体ではなかった。
左右の木々の間から、さらに別の個体が現れる。逃げ道を塞ぐように回り込み、A組の生徒たちを森の奥へ追い立てていった。
土煙が舞い上がる。
木々の間に、爆発音と轟の氷が広がる音が響き渡った。
おもちは迫り来る魔獣を見据え、身を低くする。
使えない個性を嘆いている暇はない。
今、自分にできることをするだけだ。
「……さて。どうやって抜けようかな?」
小さく呟いた彼女の目には、恐怖よりも冷静な思考の光が宿っていた。
林間合宿は、まだ始まったばかりだった。