第9章 林間合宿
ピクシーボブは、楽しそうに笑った。
「もちろん、全員自力でね!」
「ま、魔獣……?」
緑谷が森を見つめる。
その言葉を待っていたかのように、ピクシーボブの足元の土が、ぐにゃりと動いた。
「ちなみに!」
彼女が人差し指を立てる。
「十二時三十分を過ぎたら……お昼ご飯は抜きよ!」
「はあああああ!?」
A組の悲鳴が、山中に響き渡った。
「飯抜きだと!?」
切島が叫び、上鳴は頭を抱えた。
「いやいやいや!三時間も森を歩かせて飯抜きはキツいって!」
「歩くだけじゃないわよ?」
ピクシーボブが、にっこりと笑う。
その笑顔を見て、おもちは静かに目を細めた。
――なるほど。
単純な移動訓練ではないらしい。
時間制限を設け、地形を利用し、さらに妨害まで用意している。生徒たちの体力だけでなく、判断力や個性の応用力も試すつもりなのだろう。
「じゃあ、みんな。準備はいい?」
生徒たちは、それぞれ動揺しながらも覚悟を決める。
おもちも小さく息を吐いた。
個性が使えない今、自分にできることは限られている。
だが、何もできないわけではない。
地形の把握、状況判断、周囲の動きの観察。個性に頼らずとも、活かせるものはある。
そう考え、彼女は森の入り口へと視線を向けた。
その瞬間だった。
「それじゃあ――スタート!!」
ピクシーボブの声が響く。
次の瞬間、足元の地面が大きくうねった。
「えっ!?」
「うおっ!?」
土が盛り上がり、地面そのものが波のように動き出す。
生徒たちが反応するより早く、足場が崩れた。
「うわあああああっ!!」
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇ!!」
A組の面々は、土砂とともに斜面の下へと一気に滑り落とされていった。
「っ……!」
おもちも例外ではなかった。
足元が崩れた瞬間、身体が大きく傾く。
反射的に重心を低くし、近くの木の根へ手を伸ばす。指先が一瞬引っかかったものの、勢いを止めきれず、そのまま斜面を滑り落ちた。
土煙が舞い上がる。
あちこちから悲鳴が上がり、誰かが転がり、誰かが木の枝を掴んで体勢を立て直している。