第9章 林間合宿
「それからは、どうなの?」
「どうって?」
「炎を使う時、氷とは違う感覚があるのかしら。発動させるために、何か特別なことを意識している?」
轟は自分の右手を見つめた。
「……今は、そこまで考えてねぇな」
「考えていない?」
「使う必要があれば使う。それだけだ。右手から氷を出す時も、左手から炎を出す時も、身体のどこに力を入れるかは自然に分かる。いちいち考えてるわけじゃねぇ」
彼は一度、言葉を切った。
「ただ、最初からそうだったわけじゃない。慣れるまでは、どのくらい出すか、どこに向けるか、いろいろ考えてた」
「……慣れ、か」
彼女は小さく呟いた。
轟は彼女の横顔を見た。
「お前はどうなんだ?」
「私?」
「個性を使う時、何か意識してたのか?」
その問いに、彼女は少しだけ困ったように笑った。
「……どうだったかしら」
本当に、思い出せないわけではない。
けれど、言葉にするのは難しかった。
彼女にとって、個性を使うことは、呼吸をすることに似ていた。
意識するより先に、必要な力を必要なだけ動かしていた。
状況を把握し、対象を認識し、力を向ける。
それがあまりにも自然だったからこそ、今になって説明しようとすると、何をどう伝えればいいのか分からない。
「私も、以前は特別なことを考えていたわけではないの。必要だと思えば、自然に使えていたから」
「……そうか」
轟は少し考え込んだ。
「なら、今は無理に思い出そうとしなくてもいいんじゃねぇか」
彼女が顔を向ける。
「無理に?」
「ああ。使えない理由が分かってねぇなら、感覚だけ思い出そうとしても、どうにもならねぇかもしれない。……でも、戻った時に、また一から考えればいい」
その言葉は、驚くほど飾り気がなかった。
励まそうとしているわけでも、気休めを言っているわけでもない。
ただ、自分の経験からそう考えているのだろう。
おもちはしばらく轟を見つめた後、ふっと微笑んだ。