第9章 林間合宿
「轟君は、個性を複数持っているでしょう? それぞれ、どんな感覚で動かしているの?」
轟の視線が、彼女へ戻る。
「……感覚?」
「ええ。例えば、右側の氷と左側の炎。使う時に、身体の中で何か違いを感じるのかしら。それとも、意識を向ければ自然に使い分けられるもの?」
質問を受けた轟は、少し考え込んだ。
「……どうして、そんなことを聞くんだ?」
彼女はすぐには答えなかった。
窓の外を流れていく景色を眺めながら、指先をそっと握る。
今も、自分の個性は使えない。
発動しようと意識を向けても、何も起こらない。
以前なら、当たり前のようにできていたことが、今はできないのだ。
個性が戻らない理由も、いつ戻るのかも分からない。
検査を受けても、まだ明確な答えは得られていなかった。
それでも、何か手掛かりが欲しかった。
個性を使う感覚。
力を発動させる時の意識の置き方。
あるいは、自分では気付いていないだけで、個性へ繋がる何かが残っているのではないか。
そう考えた時、複数の力を使い分ける轟のことが頭に浮かんだのだった。
「……少しでも、感覚を思い出せないかと思って」
ぽつりと、彼女は答えた。
轟は黙って彼女を見つめた。
その言葉の意味を、すぐに理解したのだろう。
「まだ、使えねぇんだな」
「うん」
彼女はいつものように微笑んだ。
けれど、その笑顔がほんのわずかに硬いことに、轟は気付いていた。
「……俺の場合は」
轟は前を向き、ゆっくりと話し始めた。
「最初から二つの力があった。右と左で使えるものが違う。それ自体は、物心ついた頃から分かっていた」
「そうなのね」
「ただ、最初は右側の氷ばかり使っていた。左側の炎は、使いたくなかったからだ」
彼女は静かに頷いた。
轟が自分の過去について多くを語らないことは知っている。
だからこそ、今の言葉の重みを感じ取っていた。
「……炎を使うことに、抵抗があったのね」
「ああ。親父の力だったからな」
轟は淡々と答えた。
「でも、体育祭で緑谷と戦ってから、少しずつ変わった。自分の力として使うって決めたんだ」
彼女は、体育祭の光景を思い返す。
轟が初めて炎を使った時のこと。
自分自身と向き合い、過去を乗り越えようとする彼の姿は、今でも印象に残っていた。