第8章 夏休み
「爆豪くん?」
「……なんでもねぇ」
ぶっきらぼうに返す。
本当は、言いたいことが山ほどあった。
なぜ黙っていたのか。
いつから苦しんでいたのか。
今も、本当に大丈夫なのか。
だが、涙を流す芦戸を抱きしめる彼女の姿を見ていると、今すぐ問い詰める気にはなれなかった。
少なくとも、彼女が目を覚ましたことを喜んでいるのは、自分だけではない。
みんな同じだった。
彼女が無事でいてくれれば、それでいい。
今は、それだけでよかった。
相澤は、そんな生徒たちの姿を少し離れた場所から見守っていた。
心配して、怒って、泣いて。
それでも最後には、彼女のそばに集まっている。
自分の事情を簡単には明かせない少女と、それでも彼女を仲間として大切に思う生徒たち。
相澤は目を細め、心の中で静かに呟いた。
――良いクラスに恵まれたな。
その視線の先で、おもちは芦戸の涙をそっと拭い、困ったように笑っていた。
けれど、その笑顔の奥にあるものまで、彼らはまだ知らない。
彼女が本当に恐れていることも。
個性が戻らないこと以上に、知りたいと願っている答えも。
それでも今だけは。
彼女の周りに集まる温かな声と、心配そうな眼差しが、確かに彼女を一人ではない場所へと繋ぎ止めていた。