第8章 夏休み
隣から、しゃくり上げるような声が聞こえた。
見ると、芦戸が俯いていた。
「芦戸さん?」
おもちが呼びかけるより先に、芦戸は彼女のベッドへ身を寄せた。
「ごめんね……!」
赤くなった目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「私がプールに誘ったから……!」
「え?」
「メールで、絶対来てねって送ったじゃん……!おもちが断りづらかったのかもしれないのに、私、何も知らなくて……!」
芦戸は彼女の肩口に額を寄せ、声を震わせた。
「こんなに大変なことになってるなんて、全然知らなかった……。気付いてあげられなくて、ごめん……!」
その言葉に、おもちの表情がふっと柔らかくなった。
彼女はゆっくりと腕を伸ばし、芦戸の背中にそっと手を回した。
「……芦戸さん」
そして、泣いている彼女を優しく抱きしめる。
「ううん。言わなかった私が悪いから」
「でも……っ」
「芦戸さんは、私と一緒に遊びたかっただけでしょう?」
芦戸が小さく頷く。
「だったら、謝らないで」
おもちは、いつもの落ち着いた声で続けた。
「私も、みんなと一緒に過ごせて楽しかったわ。誘ってくれて、ありがとう」
「……おもちぉ……!」
芦戸はますます泣きながら、彼女にしがみついた。
その背中を、おもちは何度も優しく撫でた。
まるで、泣いている子どもをあやすように。
その光景を見ていたクラスメイトたちの表情も、少しずつ変わっていった。
切島は心配そうに眉を下げ、上鳴は唇を噛んでいる。緑谷は何か言いたそうにしながらも、今は黙って彼女を見守っていた。
轟も、静かにベッドのそばに立っていた。
そして、爆豪は腕を組んだまま、彼女から目を離さなかった。
個性が使えなくなったことを、まるで大したことではないかのように話す彼女。
泣いている芦戸を、逆に慰めている彼女。
自分自身だって、今まで通りではいられないはずなのに。
どうして、そんなふうに笑っていられる。
どうして、自分のことよりも、周りの人間を気遣える。
「……チッ」
爆豪は小さく舌打ちした。
その音に気付いたおもちが、芦戸の背中を撫でながら彼を見る。