第8章 夏休み
「あぁ、個性、使えなくなっちゃったの」
あまりにもあっけらかんとした言い方だった。
「…………は?」
上鳴が間の抜けた声を出す。
八百万と麗日だけは、驚きよりも先に別の感情が顔に表れていた。
怒りに近い感情だった。
「……おもちさん」
八百万が一歩、ベッドに近付く。
普段は礼儀正しく、相手の事情を尊重する彼女が、今は真剣な顔でこちらを見つめていた。
「そんな大事なこと、どうして今まで黙っていたんですか!?」
思いがけない強い口調に、おもちはぱちりと瞬きをした。
「八百万さん……?」
「個性が使えなくなったんですよ!?それがどれほど大変なことか、分かっているでしょう!?」
八百万の声が震える。
「私たちが何も知らずに過ごしている間、あなたはずっと一人で抱えていたんですか?」
「……それは」
「うちも同じ気持ちや!」
麗日も、涙をこらえながら言葉を重ねた。
「何も言ってくれへんかったら、うちらは気付けへんよ……!いつも通りに笑ってたら、大丈夫なんやって思ってまうやん!」
彼女たちの目は真剣だった。
同情しているのでも、腫れ物に触るように扱おうとしているのでもない。
ただ、本気で心配していた。
だからこそ、何も知らされていなかったことが悲しかったのだ。
おもちは二人を見つめたまま、しばらく言葉を失った。
公安で過ごしてきた日々の中で、自分の事情を誰かに打ち明けることは、簡単ではなかった。
隠すことに慣れていた。
自分のことは自分で処理する。それが当たり前になっていた。
だから、個性が使えなくなったことも、必要以上に周囲へ話すつもりはなかった。
こんなふうに、真正面から怒ってくれる人たちがいる。
その事実が、胸の奥にじんわりと広がっていった。
「……ごめんなさい」
小さく謝った彼女の言葉に、八百万は唇を引き結んだ。
「謝ってほしいわけではありません。ただ……もっと頼ってほしかったんです」
麗日も何度も頷く。
「そうやよ……。うちら、クラスメイトやん」
その時だった。
「……うっ、うう……」