第8章 夏休み
瞼が、ひどく重かった。
(……起きづらいな)
意識は少しずつ浮上しているのに、身体が思うように動かない。全身に残る倦怠感に、おもちは小さく眉を寄せた。
ゆっくりと息を吸い、ようやく目を開ける。
見慣れた保健室の天井が視界に入った。
「……ん」
かすかに声を漏らすと、すぐそばにいた爆豪が反応した。
「おい!起きたのか!?」
その声に、室内にいた全員が一斉に振り向く。
「おもちちゃん!」 「大丈夫!?気分は!?」 「どこか痛いところはない!?」
次々と飛んでくる声に、彼女は一瞬、目を丸くした。
ベッドの周りを取り囲むクラスメイトたち。その表情は、安堵と心配が入り混じっている。中には、今にも泣き出しそうな顔をしている者までいた。
「……ふふっ」
思わず、小さな笑みがこぼれる。
「心配かけてごめんなさい」
その言葉を聞いた途端、麗日の目に涙が浮かんだ。
「もう……!ほんまに心配したんやから……!」
「そうだよ!全然目ぇ覚まさないんだもん!」
芦戸も目元を赤くしながら、彼女の顔を覗き込む。
「お前なぁ……!」
爆豪が何か言いかけたが、彼女の顔色を見て、ぐっと言葉を飲み込んだ。
いつもの調子で怒鳴りつけたい気持ちはあった。聞きたいことも山ほどある。
だが、目の前の彼女はまだ顔色が優れず、起き上がるのもつらそうだった。
今は、無事に目を覚ましたことを喜ぶべきなのだろう。
おもちはそんな彼らを見渡してから、ふと、ベッドの脇に立つ相澤に目を向けた。
相澤は彼女の視線に気付くと、わずかに身を屈め、周囲には聞こえないように耳打ちした。
「……お前の個性の件は、重要な部分を伏せて説明してある」
彼女の瞳が、ほんの少しだけ揺れた。
「そう……」
「詳しいことを話すかどうかは、お前が決めろ。ただし、無理はするな」
相澤はそれだけ告げると、静かに身を起こした。
彼女は一度、クラスメイトたちへ視線を戻す。
なるほど。どうやら、自分が眠っている間に、ある程度の事情は伝わってしまったらしい。
それならば、隠し続けても仕方がない。
彼女は枕に頭を預けたまま、いつもの穏やかな調子で口を開いた。