第8章 夏休み
「……だからって、一人で抱え込んでんじゃねぇよ」
その声は小さく、周囲の喧騒に紛れそうなほどだった。
だが、隣にいた切島には聞こえていた。
切島は何も言わず、爆豪の横顔を見つめた。
怒っている。
けれど、その怒りは彼女を責めるためのものではなかった。
どうして気付けなかったのか。
どうして、もっと早く聞かなかったのか。
そして、どうして彼女は、倒れるまで平気な顔をしていたのか。
そんなやり場のない感情が、彼の中で渦巻いているようだった。
爆豪はベッドへと歩み寄った。
眠る彼女の顔色は、先ほどより少しだけ落ち着いている。
いつもなら、目が合えば余裕たっぷりに笑うだろう。
こちらの考えを見透かしたような目で、さらりとかわしてくるかもしれない。
だが、今は目を閉じたまま、何も答えない。
「……おい」
呼びかけても、返事はない。
爆豪はしばらく彼女を見下ろしていたが、やがて舌打ちを飲み込むように口を結んだ。
「起きたら、ちゃんと説明しろよ」
それは命令のような口調だった。
けれど、その言葉の奥には、彼女自身の口から聞きたいという思いがあった。
教師から聞いた説明だけでは、まだ分からないことが多すぎる。
本当は何が起きたのか。
どれほど苦しかったのか。
そして、今、何を考えているのか。
それを知りたいと思った。
彼女が隠してきたものを、無理やり暴きたいわけではない。
ただ――もう二度と、目の前で倒れる彼女を、何も知らないまま見ていたくなかった。
その時、ベッドの上で、おもちの指先がかすかに動いた。
爆豪の視線が、すぐさまそちらへ向かう。
「……!」
だが、彼女が目を覚ます気配はなかった。
ただ、閉じられた瞼の奥で、何かを探すように眉がわずかに寄せられる。
彼女はまだ、夢の中にいた。
眠り続ける黄金の龍を前にして、その答えを求めている。
自分の個性は、いったい何なのか。
なぜ、使えなくなったのか。
そして、この龍は、自分とどこで繋がっているのか。
現実の世界では、彼女を案じる仲間たちが答えを待っている。
けれど、彼女自身が求めている答えもまた、まだ見つかってはいなかった。