第8章 夏休み
――そういうことだったのか。
ようやく、いくつもの疑問が一本の線で繋がった。
職業体験が終わった日、相澤と彼女が話していたこと。
期末テストの実技試験で、彼女が一度も個性を使わなかったこと。
そして、体育祭の時。
爆豪の脳裏に、あの光景が蘇る。
試合が終わった後、彼女が注射器を使っていたこと。
あの時は、何のためのものなのか分からなかった。薬を使うという異様な光景に、疑問を抱いていた。
だが、今なら分かる。
あれは、単なる応急処置などではなかったのかもしれない。
「……体育祭の時の注射器は、そういうことだったのか」
誰に聞かせるでもなく、爆豪は呟いた。
相澤の視線が、わずかに彼へと向けられる。
爆豪は顔を上げず、眠っている彼女を見つめていた。
個性を過剰に使えば、身体に負担がかかる。
その負担を抑えるために薬を使い、結果として個性が使えなくなった。
そして今も、いつ戻るか分からない状態にある。
体育祭の時点で、すでに何らかの事情を抱えていたのだろう。
それでも彼女は、誰にも弱みを見せなかった。
自分たちの前では、いつも冷静で、余裕さえ感じさせる顔をしていた。
「……そりゃ、言えねぇはずだ」
爆豪は、苦々しく息を吐いた。
事情を知らない自分たちに話せることなど、限られていたのかもしれない。
それに、個性が使えないことを知られれば、周囲の反応が変わることも、彼女は分かっていたはずだ。
同情されることも、心配されることも。
あるいは、今まで築いてきた関係が変わってしまうことも。
彼女なら、そんなことまで考えて、何も言わなかったとしても不思議ではない。
爆豪の眉間に、深い皺が刻まれた。