第8章 夏休み
圧倒的な力を持ちながら、必要以上にそれを振るうことはない。状況を瞬時に判断し、相手の動きを読み、最小限の行動で戦況を変える。
あの個性には、まだ自分たちの知らない何かがある。
そう感じたことは、一度や二度ではなかった。
けれど、まさかその本質を調べ直さなければならないほどの事態になっていたとは、想像もしていなかった。
「じゃあ……今回倒れたのも、その薬が関係している可能性があるんですか?」
緑谷の問いに、相澤は慎重に答えた。
「可能性は否定できない。ただ、今日の症状が抑制剤の副作用によるものなのか、それとも別の原因があるのか、現時点では判断できない。だからこそ、医療機関での検査と経過観察が必要なんだ」
「そんな状態なのに、あいつ……」
切島は言葉を詰まらせた。
いつもと変わらない顔で笑っていた。
女子たちと一緒にプールで遊び、男子たちの騒ぎを見て笑っていた。
自分たちと同じように、何の変わりもない夏休みを過ごしているのだと思っていた。
その裏で、彼女はいつ個性が戻るかも分からない不安を抱えていたのだ。
「……なんで、何も言ってくれなかったんだろう」
麗日の呟きに、誰も答えられなかった。
相澤は、彼女の事情をこれ以上詳しく話すつもりはなかった。
彼女が何者なのか。なぜ、そこまでして個性の本質を調べなければならないのか。
その理由のすべてを、生徒たちに明かすことはできない。
「本人が話していないことには、それなりの事情がある。お前たちが心配する気持ちは分かるが、無理に聞き出そうとするな」
「……分かってるよ」
爆豪が低く答えた。
その声には、いつものような苛立ちがあった。
だが、先ほどまでの疑念は薄れていた。
彼は腕を組み、視線を床へと落とす。