第8章 夏休み
相澤は、教室で生徒たちに説明するような口調で、順を追って話し始めた。
「まず、職業体験が終わった日から個性が使えなくなったことについてだ」
クラスメイトたちの視線が、一斉に相澤へと集まる。
「職業体験中、おもちは個性を過剰に使用した。その結果、身体への負担が限界を超えた」
「限界って……そんなに無茶したのかよ?」
切島が眉をひそめる。
相澤は小さく頷いた。
「詳しい状況については、今は話せない。だが、あいつの個性は使い方によって、身体に相当な負荷がかかる。職業体験先での一件を受け、やむを得ず高濃度の抑制剤を投与することになった」
「抑制剤……?」
緑谷が聞き返す。
「個性の働きを抑えるための薬だ。通常とは異なる状況で使用したこともあり、その副作用で、現在も個性が一時的に使えない状態が続いている」
「えっ……じゃあ、もう個性がなくなっちゃったってこと!?」
芦戸が思わず声を上げる。
「いや、そうとは限らない」
相澤はすぐに否定した。
「現時点では、個性そのものが失われたと判断されているわけじゃない。ただ、いつ使えるようになるのかは分かっていない。数日で戻るのか、もっと時間がかかるのか……それすら、今は断言できない」
保健室に、再び沈黙が落ちた。
「そんな……」
麗日は口元に手を当てた。
個性が使えなくなる。
彼らにとって、それは単なる能力の一時的な不調という言葉では片付けられない問題だった。
ヒーローを目指す者にとって、個性は自分の強みであり、戦うための大切な手段でもある。
それがいつ戻るか分からないまま、使えなくなっている。
しかも、彼女はその事実を誰にも明かさず、普段通りに振る舞っていたのだ。
「……じゃあ、昨日の検査は?」
芦戸が慎重に尋ねた。
相澤は一度、眠っている彼女へと目を向けた。
「個性の本質を、改めて調べるためだ」
「本質……?」
「これまで分かっていたことだけでは、今回の現象を説明できない可能性がある。個性が使えなくなった原因を探るだけじゃない。あいつ自身の個性がどういうものなのか、根本から確認する必要があるんだ」
緑谷の瞳が揺れた。
彼は、体育祭での彼女の戦いを思い出していた。