第8章 夏休み
答えを知っているかもしれない大人は、目の前にいる。
リカバリーガールは、眠るおもちへと視線を向けた。
本来なら、本人の許可なく話すべきではないこともある。彼女の事情を、ここで勝手に明かすわけにはいかなかった。
けれど、今の爆豪の問いに、ただ黙っていることが正しいのかも分からない。
「それは……」
言いかけて、言葉が止まった。
どう答えるべきか迷った、その時だった。
「――そのことだが」
保健室の入口から、低い声が響いた。
全員が一斉に振り返る。
扉の前に立っていたのは、相澤消太だった。
いつもと変わらない眠たげな目。だが、その視線はクラスメイトたちをひと通り見渡した後、ベッドで眠るおもちへと向けられた。
「俺から話す」
その一言に、保健室の空気が変わった。
「相澤先生……」
緑谷が小さく呟く。
爆豪は相澤を真っ直ぐに見据えた。
「……じゃあ、やっぱり本当なんだな」
相澤はすぐには答えなかった。
代わりに、彼女の眠るベッドのそばまで歩み寄る。
そして、彼女の顔色を確かめるように一度目を落とした後、クラスメイトたちに向き直った。
「お前たちに、どこまで話すべきかは慎重に考える必要がある。本人の事情もあるからな」
一拍置く。
「だが、今回の件を考えるうえで、個性のことを抜きにして話すのは難しい」
爆豪の表情が険しくなる。
相澤はそれを見て、静かに続けた。
「……おもちが個性を使えなくなったのは、事実だ」
誰もが息を呑んだ。
分かっていたはずの答えだった。
それでも、教師の口からはっきり告げられた瞬間、その事実は彼らの中で重みを持った。
「ただし、なぜ使えなくなったのか。そして、今回倒れたことと関係があるのか。それについては、まだ分かっていないことも多い」
「まだ分かってねぇって……」
爆豪が低く呟く。
「じゃあ、こいつは……ずっとこのままだってのかよ」
「爆豪」
「答えろよ、先生」
鋭い視線が相澤を射抜いた。
「いつからだ。なんで使えなくなった。こいつは……何を隠してんだよ」
ベッドの上では、おもちが静かに眠り続けていた。
誰も知らなかった彼女の秘密が、今、少しずつ明らかになろうとしていた。