第8章 夏休み
保健室には、重苦しい沈黙が流れていた。
ベッドの上で眠り続けるおもちを、クラスメイトたちは心配そうに見つめている。先ほどリカバリーガールから告げられた話が、誰の胸にも引っかかっていた。
検査。以前からあったという体調不良。そして、個性との関係。
誰もが彼女について知りたいと思っていた。けれど、本人が眠っている今、何をどこまで聞いていいのか分からずにいた。
そんな沈黙を破ったのは、爆豪だった。
ベッドから目を離さないまま、低い声でリカバリーガールに尋ねた。
「……個性が使えねぇことが、原因なのか?」
リカバリーガールの表情がわずかに変わる。
「なんだって?」
「そのまんまの意味だ」
爆豪は一度、言葉を切った。
普段なら、思いついたことを遠慮なく口にする彼が、珍しく言葉を選んでいる。
「……職業体験が終わった日だ」
その言葉に、数人が顔を上げた。
「俺、偶然聞いちまったんだよ。相澤先生とこいつが話してるところを」
「えっ……?」
芦戸が小さく声を漏らす。
爆豪は気に留めず、記憶をたどるようにぽつぽつと話し始めた。
「詳しくは聞こえなかった。けど……相澤先生が、個性が使えなくなったとか、そんな話をしてた」
彼女の横顔を見つめる。
「最初は、何かの聞き間違いだと思った。こいつが個性を使えねぇなんて、簡単に信じられる話じゃなかったからな」
彼女の個性は、体育祭でも圧倒的な存在感を放っていた。
状況を見極め、必要な瞬間に力を使う。派手に暴れ回るタイプではないが、その力の底知れなさは、爆豪自身が誰よりも感じていた。
そんな彼女が、個性を使えなくなった。
すぐに信じられるはずがなかった。
「だが、ずっと引っかかってた」
爆豪は拳を握り込んだ。