第8章 夏休み
水着から着替えを済ませたA組の生徒たちは、相澤の指示を無視して、結局、保健室の前に集まっていた。
いつもの賑やかさはない。
廊下には、落ち着かない様子で行ったり来たりする者もいれば、壁にもたれて腕を組み、じっと扉を見つめている者もいた。
「……まだかな」
葉隠が不安そうに呟く。
「リカバリーガールが診てくれてるんだ。きっと大丈夫だよ」
麗日はそう言ったものの、その声にも心配が滲んでいた。
彼女が倒れたのは、本当に突然だった。
少し前まで、皆と笑っていたのだ。ビーチボールで遊び、ジュースを飲み、何気ない会話を交わしていた。
それなのに、ほんのわずかな時間で、あんなにも顔色を悪くして意識を失ってしまった。
「着替えも必要だったでしょうし、処置にも時間がかかっているのかもしれませんわね」
八百万が静かに話す。
誰もが、その言葉に頷いた。
今はリカバリーガールから入室の許可が出ていない。彼女の着替えや必要な処置を行っているのだろう。そう考えるのが自然だった。
ただ一人、爆豪だけは黙ったまま、扉から視線を外さなかった。
濡れた髪を拭き、着替えを済ませてから、ずっとこの調子だった。
「爆豪、ちょっと座ったらどうだ?」
切島が声をかける。
「うるせえ」
「いや、別にいいけどよ……」
切島は苦笑したが、それ以上は何も言わなかった。
爆豪の機嫌が悪いのは、いつものことだ。
しかし、今日のそれは少し違っていた。
眉間の皺が深い。腕を組む指先には力が入り、視線は一度も扉から離れない。
まるで、扉の向こうで何が起きているのか、少しでも早く知りたいとでもいうように。
爆豪の脳裏には、彼女の腕に残っていた採血の痕が焼きついていた。
検査。
昨日、病院で何を調べたのか。
なぜ、彼女はそのことを誰にも話していなかったのか。
そして、今日のあの異変と関係があるのか。
考えれば考えるほど、苛立ちが募った。