第8章 夏休み
「おい、芦戸」
「なに?」
「こいつ、昨日病院に行ったとか言ってなかったか?」
芦戸は一瞬、考えるように目を伏せた。
「……確か、プールの誘った時のメールに、病院の検査帰りだって言ってたけど、詳しいことはわかんない」
「検査……?」
爆豪の表情が険しくなる。
ただの採血なのか。それとも、何か別の検査を受けたのか。
昨日の検査と、今日の体調不良。
偶然かもしれない。
しかし、普段の彼女を知っているからこそ、簡単には片づけられなかった。
こいつは、自分の不調を簡単に他人へ打ち明けるような人間ではない。
きっと、倒れる直前まで平気な顔をしていたのだろう。
実際、先ほどもそうだった。
『大丈夫よ。少し、疲れただけ……』
あの笑顔が、脳裏によみがえる。
――ふざけんな。
大丈夫な人間が、あんな顔をするか。
爆豪は彼女の顔を見下ろした。
「……何を隠してやがる」
誰にも聞こえないほどの小さな声だった。
そのとき、遠くから足音が響いた。
「おいおい、どうなってやがる?」
駆けつけた相澤が、爆豪のそばへ膝をつく。
「いつから意識がない?」
「ついさっきだ!急に気分が悪そうになって、そのまま倒れた!」
爆豪は即座に答えた。
「それまでの様子は?」
「競泳を見てた。そしたら顔色が悪くなって、手すりにつかまってやがった。呼びかけてもまともに返事ができなくなって……」
自分でも驚くほど、状況を正確に説明できた。
彼女の様子を、思っていた以上によく見ていたらしい。
「わかった。あとは任せて、各自、着替えて教室で待ってろ。他に体調の優れない者はいないな?」
教師が彼女の意識と呼吸を確認し、周囲へ指示を出す。
爆豪はその場を離れようとしなかった。
「爆豪くん、相澤先生が来てくれたから……」
麗日が遠慮がちに声をかける。
「わかってる」
短く答えたものの、彼は彼女の身体を引き渡したあとも、すぐそばから動かなかった。
爆豪は拳を握り締めたまま、その後ろ姿を見送った。
「爆豪……」
切島が、いつになく真剣な顔で声をかける。
「着替えたら、保健室行こうぜ?ダチが倒れたのに教室で待ってるだけなんてできねぇよ」
「……あぁ、行くに決まってんだろ!」
即答だった。
言ってから、自分でも少し驚いた。
なぜ、そこまで気になるのか。