第8章 夏休み
爆豪の腕の中で、彼女の身体から力が抜けていく。
いつもなら、どんな状況でも冷静に周囲を観察し、余裕のある笑みを浮かべている女だ。多少のことでは動じず、誰かに弱みを見せることもない。
そんな彼女が、今は青白い顔をして、ぐったりと自分に身体を預けている。
爆豪は奥歯を噛み締めた。
「おい、おもち!聞こえてんのか!」
頬を軽く叩くようにして呼びかけるが、返事はない。
「爆豪くん、おもちちゃん、大丈夫なの!?」
駆け寄ってきた麗日が、不安そうに彼女の顔を覗き込んだ。
「知るか!急にぶっ倒れやがったんだよ!」
声を荒らげながらも、爆豪の腕は彼女の頭を支え、身体に余計な負担がかからないよう慎重に抱えていた。
「保健室には連絡しましたわ!先生もすぐに来てくださるそうです!」
八百万が戻ってくる。
その隣では、葉隠が今にも泣き出しそうな声で彼女の名前を呼んでいた。
「ねえ、おもちちゃん……!さっきまで普通だったじゃん……!」
「少し前までは、ジュースを飲んで笑っていたんだ。こんな急に……」
飯田も困惑を隠せない様子だった。
男子たちも、先ほどまでの騒ぎが嘘のように静まり返っている。
爆豪は周囲の声を聞きながら、彼女の様子を観察していた。
呼吸はある。
だが、顔色が悪い。額には汗が浮かび、唇からも血の気が引いている。
熱中症か。それとも、何か別の原因か。
考えたところで、今の自分に診断などできるはずもない。
「……あ?」
彼女の身体を支え直そうとしたとき、爆豪の視線がふと彼女の左腕に止まった。
細い腕。その内側に、テープかぶれした様な赤みが浮かんでいる。
その中心には、うっすらと青紫色の痕。
「……なんだ、これ」
思わず呟く。
位置からして、採血の痕に見えた。
爆豪は眉をひそめる。
そういえば、昨日だったか。
彼女は病院に行くと言っていた。
詳しいことまでは聞いていない。そもそも、わざわざ自分から話すような間柄でもなかった。
だが、今になって、そのことが妙に引っかかった。