第8章 夏休み
男子たちは勝った負けたと盛り上がり、次の勝負の方法を考え始めている。
その様子を見ていたおもちも、思わず笑みをこぼした。
「ふふっ……本当に、皆らしいわね」
爆豪の勝ち方には呆れるけれど、勝負となれば手段を選ばず、全力で楽しもうとする。いかにも彼らしい。
ふと、彼女の笑みが消えた。
「……あれ?」
視界が、わずかに揺れた。
何かがおかしい。
さっきまで聞こえていた男子たちの声が、少し遠くなったような気がした。
「……なに?」
彼女は眉を寄せ、こめかみに指を当てた。
身体の奥から、すうっと血の気が引いていく。
「気持ち、悪い……」
思わず呟いた声は、自分でも驚くほど小さかった。
おかしい。
こんなことになるはずではなかった。
昨日の精密検査で採血をしたことは覚えている。けれど、それだけでこんなに具合が悪くなるものだろうか。
いや、採血だけが原因ではないのかもしれない。
炎天下で長時間過ごしたこと。
日光浴をしながら、思いのほか体力を消耗していたこと。
そして、水の中で遊び続けたことによる疲労。
一つひとつは大したことがなくても、積み重なれば身体に負担がかかる。
普段なら、これくらいで音を上げたりはしない。
公安で培った体力と精神力には、それなりの自信があった。
それなのに、
「……どうして、こんな……」
彼女はそっと胸元に手を当てた。
心臓が、いつもより速く打っている。
額に浮かぶ汗は、暑さのせいだけではないように感じられた。
視界の端が白くかすむ。
まずい。
そう判断した瞬間、彼女は無意識にプールサイドのフェンスへ手を伸ばした。
指先が、かろうじて縁を捉える。
「……っ」
膝から力が抜けそうになるのを、どうにか堪えた。
こんなところで倒れるわけにはいかない。
そう思うのに、身体が思うように動かない。
先ほどまであんなに楽しかったのに。
みんなの笑い声が、遠くで響いている。
「……落ち着け」
自分に言い聞かせるように、彼女はゆっくりと息を吸った。
けれど、吐き出した息はわずかに震えていた。
そのときだった。
「おい」
低く、聞き慣れた声がした。