第8章 夏休み
「ただ、最近、夢を見るの。水辺に赤い鳥居があって、そこに大きな黄金の龍が現れる夢。『迎えに来た』って、そう言われた気がする」
「黄金の龍……?」
「初めて見るはずなのに、なぜか懐かしく感じたの。個性が使えなくなったことと関係があるのかは分からないけれど……無関係だと片づける気にもなれなくて」
ホークスは黙って話を聞いていた。
彼女が自分からこうした話をするのは、決して多くない。
「だから、もう一度きちんと調べることにしたの。自分のことなのに、知らないことが多すぎるから」
「……そっか」
ホークスは静かに頷いた。
「なら、結果が出るまでは一人で抱え込まないこと。何かあったら連絡して。俺にできることなら手伝うから」
「ありがとう。頼りにしてるわ」
彼女が微笑むと、ホークスもいつもの表情を取り戻した。
「もちろん。なんたって、俺は頼れるヒーローだからね」
「自分で言う?」
「言うよ。宣伝は大事だから」
「はいはい」
彼女は呆れたように笑った。
重い話をしていたはずなのに、いつの間にかいつもの調子に戻っている。
昔からそうだった。
ホークスは、彼女が無理に笑っている時には気づく。それでも、必要以上に問い詰めることはせず、彼女が自分から話せるようになるまで待ってくれる。
「……今日は来てくれてよかったわ」
ふと彼女が言うと、ホークスは目を丸くした。
「えっ、今なんて?」
「聞こえたでしょう?」
「いやぁ、もう一回聞きたいなと思って」
「やっぱり帰る?」
「ごめんなさい、帰りません!」
即答するホークスに、彼女はとうとう声を立てて笑った。
その笑い声が、静かなリビングに響く。
個性が戻らない不安も、父が何かを隠していたかもしれないという疑念も、まだ消えてはいない。
けれど今は、明日のプールを楽しみにする気持ちも、昔からの知り合いと過ごす穏やかな時間もある。
すべての答えを急がなくてもいい。
彼女はそう思いながら、もう一度グラスに口をつけた。