第7章 期末テスト編
自分が何を放っていたのか、まるで実感がないらしい。
オールマイトは、言葉を慎重に選んだ。
「……君自身は、誰かを傷つけたいと思ったわけではないんだね」
あの瞬間。
頭の中が真っ白になったわけではない。むしろ、妙なほど静かだった。
周囲の音が遠のき、目の前にいるオールマイトだけが、はっきりと見えていた。
その存在を排除することに、何のためらいも感じないような感覚。
けれど、それは本当に自分の感情だったのだろうか。
「……よく、分かりません」
彼女は小さく呟いた。
「腹が立ったことは覚えてるけど、それ以上のものがあったのかどうかは……」
そこで、彼女は言葉を切った。
「ごめんなさい。自分でも、よく分からなくて」
オールマイトはしばらく彼女を見つめていた。
「謝る必要はないよ」
彼は静かに告げた。
「ただ、あの時の君の目は……私も、思わず身構えてしまうほどだった」
彼女は目を見開いた。
オールマイトが、身構えた。
それは、彼女にとって意外な言葉だった。
どれほど強い敵を前にしても、彼は人々を安心させる存在だった。そんな彼が、一瞬でも警戒するほどのものを、自分が放っていたというのか。
「……そんなに?」
「ああ」
オールマイトは誤魔化さなかった。
「だからこそ、気になっているんだ。君が何を感じ、何を思っていたのか。そして、あの目が何を意味していたのか」
彼女はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと視線を落とす。
「……自分でも、分かりません」
その声には、いつものような余裕がなかった。
「今まで、あんなふうになった覚えはないんです。少なくとも、自分では」
オールマイトは彼女の言葉を聞き、胸の奥に小さな不安が広がるのを感じた。
彼女は、自分の力をよく理解しているようでいて、その根本については何も分かっていない。
個性が使えなくなった今、彼女自身にも説明できない何かが表に出てきたのだとしたら。
それは、見過ごしていいことではなかった。