第7章 期末テスト編
その言葉に、誰もすぐには返事をしなかった。
個性が使えないことと、戦闘能力がないことは同じではない。
体術、経験、判断力。
個性以外にも、戦うための要素はいくらでもある。
それは相澤自身が、誰よりも理解していた。
だが、彼女の殺気は、それだけでは説明できなかった。
あの一瞬。
彼女の瞳には、戦況を分析する冷静さも、相手の動きを読む観察眼もなかった。
ただ、相手を見据え、排除しようとする意思だけがあった。
何度も同じような場面を経験してきたかのように。
人を殺すという選択肢が、彼女にとって決して遠いものではないかのように。
相澤の背筋を、冷たいものが這い上がった。
――あいつは、一体何を経験してきた?
彼女が雄英に来る以前の経歴。
表向きの情報だけなら、問題はない。
だが、相澤は知っている。
彼女には、まだ隠していることがある。
そして、その秘密は、教師である自分にもすべて明かされているわけではない。
「オールマイト」
相澤が視線を向けた。
「お前は、あいつのあの顔を見たことがあるか?」
オールマイトは、すぐには答えなかった。
彼女が幼かった頃。
両親を亡くす前の彼女は、明るく、活発で、何にでも興味を持つ少女だった。
自分の後を追いかけてきては、ヒーローの話をせがんだ。
困っている人を助けられるヒーローになりたいと、目を輝かせていた。
その後、彼女の人生が変わってしまったことは知っている。
けれど、今の彼女が何を抱え、どこまで変わってしまったのか。
自分は、本当のところを理解できていなかったのかもしれない。
「……いや」
オールマイトは、静かに首を振った。
「少なくとも、私の前では……あんな顔をしたことはなかった」
その答えに、相澤は目を伏せた。
「そうか」
短く答えただけだったが、その声には重さがあった。
彼女が個性を使えないことは、今後の授業や訓練にも影響するだろう。
しかし、それ以上に気がかりなのは、あの殺気だった。
あれは、ただの一時的な感情の爆発だったのか。
それとも、彼女が普段から必死に押さえ込んでいる何かなのか。
相澤には、まだ判断できなかった。